■ 巨大企業Microsoft
世界最大のOSメーカー、Microsoftはまた、世界最大のソフトウェアメーカーでもある。年間売上322億ドル(約3.5兆円)、
その大半はOSライセンス料だが、アプリケーション分野の売上も他社に追随を許さない。誰もが認める、最も成功したソフトウェア企業である。
…ビジネス面では。
さて、これほどの大企業ともなると社会的な側面が見逃せないのであるが、Microsoftの社会的評価はどうであろうか。
最も愛されているメーカーではないのは明らかである。数多くの訴訟をかかえ、米公正取引委員会からはブラックリストのトップグループに加えられ、
ハッカーやクラッカー達からは攻撃の目標に据えられる。また、Microsoftによって多大な損害を受けた企業は数知れない。
これはなぜだろうか。Microsoftの社会的な功績、そして引き起こした損失をあらためて論じてみる必要があるだろう。
■ OSメーカーとしてのMicrosoft
第一に、Micrsoftは、現在最も多く稼動しているOS、Windowsファミリを世に提供した。その得失:
(+)統一的なGUIにより、PCの普及を促した。
(+)専門的な知識なくネットワークを利用できるようにした。また、IEの無償バンドルにより、インターネットの利用を促した。
(+)独占的シェアにより、価格を誰もが入手可能なものにした。
(−)他の優れたOSやブラウザの生存を阻害した。
■ ホール・メーカーとしてのMicrosoft
次に、Windowsファミリの大きな特徴は多数のセキュリティ・ホールを持つことであるが、その数や世界最大のホール・メーカーであることは間違いない。
(−)連続するセキュリティ問題の発生により各種ネットワーク犯罪の増長を促した。
(−)企業のシステム担当部門へ多大なパッチ当ての労力を強いて損害を与えた。
(−)コンピュータ全般への庶民の信頼感を著しく損なった。
(+)「データは自分で守るもの」というown-riskの意識を広めた。
■ ソフトウェア・メーカーとしてのMicrosoft
最後に、OSメーカーとしてではなく、アプリケーション・メーカーとしての功罪がある。Microsoft Officeをはじめとする広く普及する各種ソフトウェアによって、
(−)ユーザは、Windows上で動作するアプリケーションへの不満を蓄積した。
(−)開発者は、開発環境のバグおよび仕様の不備により多大な時間を浪費した。
(−)競争相手は、すぐれたソフトウェアを買収され、よりすぐれたソフトウェアとする機会を失った。
■ 多様性の社会へ
以上をあたらめて顧みて、Microsoftとは、巨大な必要悪であるといわざるを得ない。急速に発展するコンピュータ社会の推進力として、また企業競争の限界に挑戦するパイオニアとして。
注目すべきは最後の項目である。Microsoftのコンペティタたちは、その多くがすぐれたベンチャー企業であった。パワーユーザがMSへの不満を解消するために、ライバル商品に走るたび、
Microsoftはこれを買収、または戦略的に排除し、競争相手を取り除いてきた。一営利企業としては正当な行為かもしれないのだが、
あたらしい未来への無数の道をとざし、選択肢をただひとつに絞るという行為は、人類の発展のためにはならない。
現在、生き延びている他の選択肢たち(Javaテクノロジー、UnixおよびLinuxをはじめとするその派生OS、TRON等モバイルOS、オープンソース、Macintosh他)を守るためにも、
これから出現するであろう新しいテクノロジーを育てるためにも、われわれ消費者が賢い目をもたねばならないだろう。
マイクロソフトの功罪
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